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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)985号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木村一郎の上告理由について。

論旨は要するに、「フケモリキ一」及び「フジモリキイツ」なる投票二票は、候補者藤盛喜一郎の居住部落字二井山に藤盛喜一なる人物が実在している以上同人に対する投票と認めるべきものであつて、候補者藤盛に対する有効投票と認めるべきものではないというのである。

しかし、候補者制度を採る選挙においては、選挙人は候補者に投票する意思をもつて投票に記載したものと推定するべきであるから、投票の記載が候補者氏名と一致しない投票であつても、その記載が候補者氏名の誤記と認められる限りは当該候補者に対する投票と認めるべきであつて、これを候補者でない者に対する投票と認めるべきではない。殊に本件においては、原判決の認定するところによれば、藤盛喜一は「出生以来四十数年右部落に居住しているが、公職についたとか、選挙に立候補したことなどは一度もないばかりか、本件選挙当時は僅かに現住の家屋敷、畑五畝を所有するのみで、右畑の耕作の旁ら失業対策事業の日傭稼ぎに出ていたが一家の生計を支えるに十分でなく、生活扶助をも受けていた」というのであるから、選挙人が同人に対し投票する意思をもつて右二票を記載したものとは到底認められない。そして右二票の記載は、候補者藤盛喜一郎の氏名中「郎」に相当する部分を欠くに止まるのであるから、右二票は同候補者に対する有効投票と認めるのを相当とする。所論援用の高裁判例は事情の異なる本件の場合に適切でない。原判決は正当であつて論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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